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Author:青木勇気
小説を出していたり絵本も書きたかったりします。物書きと呼ぶにはおこがましいくらいのものですが、物語を書いて生きていけたら幸せだなと思っています。

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哲学の入り口にある「ドーナツの穴」について

2012.01.17 09:23|雑記
「哲学って何ですか?」と聞かれたら、どう答えるべきだろうか。哲学という言葉は、辞書的な意味では「普遍的・根源的な問題をめぐる学問」「学問一般」と定義付けられており、政治哲学、人生哲学など「◯◯哲学」といった形で日常的に使用されてはいるものの、非常に抽象度が高く概念的なものである。

つまり、そのまま伝えたところで満足のいく回答とはなりえない。では、どうすればよいだろうか。「哲学とは、~である」と答える代わりに、たとえばこんな質問を返してみるといい。「じゃあ、ドーナツは穴と身の部分どちらがドーナツを決めていると思う?」と。

質問に質問で返すのはナンセンスだとお叱りを受けるかもしれないが、これには理由がある。「決して一言で回答できるものではない」ことを共有するところから始めなければ、答えには近づけないからである。哲学を論ずる際にはまず、あらかじめ正解を用意する方がむしろナンセンスであることを知る必要がある。

この質問に対しては、「穴」と答えても「身」と答えても「両方」と答えても「どちらでもない」と答えても良いが、そもそも回答自体を採点する種類の質問ではない。質問の意図は、あくまで「ドーナツを定義せよ」「ドーナツとは何であるか」であるからだ。つまり、求めているのは答えを出すことではなく、思考することそのものである。ドーナツは、そのことを暗示する例として適しているに過ぎない。

では、とにもかくにも「ドーナツ」を定義してみよう。辞書で調べてみると、「小麦粉に砂糖・卵・牛乳・ベーキングパウダーなどをまぜてこね、輪形などにして油で揚げた洋菓子。ドーナツ現象。ドーナツ盤」と書いてある。食べ物としてのドーナツに加え、中央に穴があいている輪状のもの、状態を比喩的に「ドーナツ」と呼んでいることがわかる。ここをスタートラインとして穴と身について考えると、次のような命題が生じる。「ドーナツの穴は“有”か“無”か?」——

手に取って味わうことができるものを「存在する」とし、それ以外は「存在しない」とするならば、身の部分に対して穴の部分は「無」となる。つまり、穴というものは「無い」のだとすれば身だけになり、イコールそれがドーナツということになる。だが、手に取って味わうことはできなくとも、「穴」と認識をしている時点でそれは身の部分に対する何らかの「有」であるとも言える。

その場合、穴と身は互いに補完する関係のため、どちらか片方だけを語ることはできないことになる。もっと言えば「ドーナツの穴は“有”か“無”か?」という命題自体が、有と無の相対化、言語化の上に成り立つものであり、根源的な議論とは言えないのではないだろうかという疑念を生み出す。定義すれば定義するほど、今話されていることが疑わしいもののように感じられるのである。

「ドーナツ」はいくつかある哲学の入り口のひとつに、ポンと置いてある。「ドーナツの穴」とは何であるかの定義から入ると、「有」と「無」が出会う。「身」の部分に触れ、味わうといった知覚によって、存在論と認識論という立場を遡及的に知ることになる。そして、ドーナツ、穴といった「名称」に取り憑かれると、もうひとつの扉がパタンと開く。ドーナツを定義しようと扉を開けた者は、新たな問題と直面している。「むしろこれはドーナツについての議論ではない」と気がつくのだ。

一見すると詭弁を弄しているように思えるかもしれないが、「哲学とは何か」という命題においては、答えを求めることが、その先に進むことを拒むのである。今いる部屋は答えではない。だから、扉を開けたその先に何があるかわからなくとも、手探りで進まなければならないのだ。どこまでも、考えることに真摯であれ。それが哲学というもの…いや、言うまい。

※言論プラットフォーム「アゴラ」に掲載された記事を転載しています
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